【 第19回世界絵画大賞展 2023 】審査員講評- 審査委員長
遠藤 彰子( Akiko Endo )
1947年 東京都生まれ
1969年 武蔵野美術短期大学卒業
1978年 昭和会展林武賞受賞
1986年 安井賞展安井賞受賞、文化庁芸術家在外特別派遣 (~87年/インド)
1992年 個展「遠藤彰子展-群れて…棲息する街-」(西武アート・フォーラム)
2004年 個展「遠藤彰子展-力強き生命の詩」(府中市美術館)
2007年 平成十八年度芸術選奨文部科学大臣賞
2014年 個展「魂の深淵をひらく-遠藤彰子展」(上野の森美術館) / 紫綬褒章受章
2015年 個展「Ouvrir la profondeur de l’âme」(パリ国立高等美術学校/フランス)
2021年 個展「遠藤彰子展-魂の旅」(鹿児島市立美術館) / 個展「物語る 遠藤彰子展」(平塚市美術館)
2022年 個展「巡りゆく―遠藤彰子展」(サントミューゼ 上田市立美術館/長野)
現在、武蔵野美術大学名誉教授、二紀会理事、女流画家協会委員。
「 審査を終えて 」
世界絵画大賞展は今年で19回目となりました。今回は応募作品数が前年より174点も増えたこと、また、30号の大きな作品に佳作が多く集まったことで、審査員一同、入選作品の選定にはかなり苦労いたしました。何度も議論を重ね、厳選なる審査の結果、1058点中158点を入選といたしました。
大賞の小俣花名さんの作品は、和紙と墨の風合いや、画面を埋め尽くす細密的な描写に、アジアの民俗画的なエッセンスが加味された造形性の面白さを感じました。画面内の文字の入れ方については賛否が分かれましたが、日常風景を独自の視点で造形化している点を高く評価し、今回の大賞といたしました。
優秀賞の古川右京さんの作品は、ヒョウの動きを一つの画面にまとめ、のびやかなタッチで構成した点が、高評価を得ました。アニメ的な感覚とキュビスムが融合したかのような表現であり、さらなる展開も期待できる佳作だと思います。
同じく優秀賞の深作秀春さんの作品は、深層心理にある風景を覗いたかのような不可思議な印象を受けました。今後、どのように展開し、バリエーションを付けていくか楽しみにしています。
東京都知事賞の本間佳子さんは、ほぼ毎年出品されている当コンペの常連の一人です。毎回視点を変え、自分ならではの表現に挑戦し続ける姿勢を、高く評価いたしました。
遠藤彰子賞の本間由佳さんの作品は、絵の具の筆致が光の粒のように感じられる心地良さ…という範囲に収まらず、謎の影とパレットを配置している点が妙に引っかかりました。言葉にできない感覚がこぼれているような、奇妙で不思議な作品です。
当コンペはこれまで、完成度の高い作品はもとより、拙くとも創造性が表れている作品を積極的に選んできました。それが、美術界で活躍する新人作家を多く輩出してきたという結果につながっているのかもしれません。今回は倍率が厳しめとなってしまったので、入選に至らなかった作品の中にも佳作が多数ありました。今回の結果にめげず、次回以降もまた挑戦していただけたら嬉しく思います。
審査員
絹谷 幸ニ( Koji Kinutani )
1943年 奈良県生まれ
1962年 奈良県立奈良高等学校卒業
1966年 東京芸術大学美術学部油画科卒業 (小磯良平教室)
1967年 独立賞受賞
1968年 同大学院壁画科(島村三七教室、アフレスコ古典画研究)卒業。独立美術協会会員となる
1971年 イタリア留学(ヴェネツィア・アカデミア入学、ブルーノ・サエッティー教授、アフレスコ古典画法等研究)
1974年 第17回安井賞受賞
1978年 マニフェスト賞受賞(イタリア・マニフェスト展)
1983年 第2回美術文化振興協会賞受賞
1987年 第19回日本芸術大賞受賞
1989年 第30回毎日芸術賞受賞
1993年 東京芸術大学美術学部教授
1997年 冬季オリンピック長野大会公式ポスター・競技別ポスター原画制作
2001年 独立美術協会第68回展出品作≪蒼穹夢譚≫ にて日本芸術院賞受賞。芸術院会員となる
2008年 若手芸術家を顕彰する「絹谷幸二賞」を創設
2010年 東京藝術大学教授退官
2014年 文化功労者に顕彰
2015年 NHK放送文化賞受賞、大阪芸術大学教授退官
2021年 文化勲章受章
2023年 絹谷幸二芸術文化賞創設(サンケイ新聞社・絹谷幸二財団)
現在、日本芸術院会員、独立美術協会会員、東京藝術大学名誉教授
「 第19回展に寄せて」
本年の世界絵画大賞展は応募作品の点数もきわめて多くなり、しかも充実した内容のある秀作も増加し選考は大変厳しいものとなりました。
第1次審査では多くの作品が残りましたが、回を重ねるごとに選者の目は厳しくなり、入選作はその数が見る見る少なくなり、ついには入賞作に至ってはこれ以上しぼり込めないほどの少数となりました。
そのような厳選の中で大賞を取られた小俣花名さんの「My sweet home」は、和紙に墨でご自身の日常と部屋をていねいに描かれた力作でした。コロナ禍の中、外出も出来なかったこの3年半あまりの時間が見事に描き出されていた秀作だと思います。
優秀賞、古川右京さんは歩行する野獣を動画のように描いたアイデアが良かったと思います。同じく深作秀春さんは、奥行きのある室内を白黒で描き、詩情さえ感じられる作でした。
東京都知事賞の本間佳子さんは、都会に住む人々の言葉にも出せない気持ちを螺旋階段の画面にひっそりと指し示していました。
さて、受賞作の中で唯一明るい絵は宮嵜大成さんの「受けとめることは進むこと」の絹谷幸二賞です。長いコロナ禍が人々の心を暗く締め付けていましたが、この作では、マスクが空中に飛び、自然も人も生々と描かれています。これからは元気に愉快に人生を楽しみましょうと作品が歌っています。プラス思考はどのような苦しい時にも必要なことですね。
なお、学生賞の佐藤璃奈さんはコラージュを自在に使い、新しい絵画の道を開こうとする力強い作品でした。
最後に、第19回展では惜しくも選にもれた作品の中にも見応えのある作が多々あったことを記し、次回作に期待したいと思います。
- 審査員
佐々木 豊( Yutaka Sasaki )
1935年 名古屋市生まれ
1949年 三尾公三に出会い油絵を始める。
1959年 国展国画賞 (同'60)、同35周年記念賞 (‘61)
1959年 東京芸術大学油画科卒業
1961年 同専攻科修了
1960年 ~ 個展多数
1967年 世界一周旅行
1972年 U.S.Aフェーマス・アーチスト・スクール研修
1978年 ~ 第1回現代の裸婦展準大賞・安井賞展・明日への具象展・具象絵画ビエンナーレ日本秀作美術展・国際形象展・日本洋画再考展・現代の視覚'91展出品
1992年 安田火災東郷青児美術館大賞
1993年 「泥棒美術学校」(芸術新聞社) 刊行
1998年 両洋の眼展倫明賞 (同’01)
2001年 個展 (香港/マーチーニ画廊)
2005年 個展「薔薇女」(東京・名古屋・大阪・京都・横浜髙島屋)「佐々木豊画集ー悦楽と不安と」刊行 (求龍堂)、大原美術館作品買上
2008年 台北、上海アートフェア
2017年 画集「薔薇と海」刊行 (求龍堂)
[作品所蔵] 愛知県美術館、横浜美術館、平塚市美術館、横須賀美術館ほか。
数ある著作のうち「泥棒美術学校」は10刷のロングセラー。
元明星大学教授。現在、国画会会員、日本美術家連盟理事。
「暗い絵に力作が目立った第19回世界絵画大賞展」
久しぶりに論争をした。山下裕二氏とである。氏が大賞に小俣花名氏の白黒作品を推すので待ったをかけたのだ。
大賞候補が7、8点並べられた時、この絵を指で撫でてみた。つるっとして印刷物みたいだ。色もない。
「例えばコレクターが絵を買う時、総額の1/3は絵肌の味わいに、1/3は色彩の魅力に支払うと言っていい。なのに、この絵にはその両方が欠けているのでは?」
「そんな決めつけは良くない、作者に失礼だよ。私はコレクターの1人だ。室町美術の研究者でもある…」
美術雑誌で作家訪問記を連載してきた氏が気に入った絵に出合うと買ってしまうのは有名な話だ。
氏のカウンターパンチを食らって目が覚めた。そうだ、審査ではネガティブな意見は言わない方がいい。賛成論だけで事は運ばれるべきだ。それが持論ではなかったか。芸術作品は賛美と結婚することで、幸福な未来が築かれるからだ。
優秀賞の深作秀春氏は、白と黒を効果的に配して強い印象を与える。不気味な室内の雰囲気を少女が救ってくれる。
古川右京氏の腕達者には脱帽。こんな動きのある絵に出合ったのは初めてだ。
東京都知事賞の本間佳子氏は、螺旋階段の絵で、上部に配した人物の上半身をカットした構図がユニークだ。紙袋と長靴が現実感を強めている。只者ではない。
学生賞の顔の絵は大胆さを買う。男の豪腕で描かれたと思いきや、16歳の璃奈ちゃんの絵でした。
佐々木豊賞の理明氏の夢のようなイメージには参った。踊っているのがお婆さんで顔を克明に描いているのもいい。1970年代に「ウィーン幻想派」が一世を風靡し、多大な影響を受けたことを思い出した。
今回は暗い絵が多く受賞作に選ばれたが、たまたまそうなっただけ。そんな年もあるんだねえ。
- 審査員
山下 裕二( Yuji Yamashita )
1958年、広島県生まれ
東京大学大学院卒業。
美術史家。
明治学院大学文学部芸術学科教授。
室町時代の水墨画の研究を起点に、縄文から現代美術まで、日本美術史全般にわたる幅広い研究を手がける。
著書に『室町絵画の残像』『岡本太郎宣言』『日本美術の二〇世紀』『狩野一信・五百羅漢図』『一夜漬け日本美術史』『伊藤若冲鳥獣花木図屏風』『水墨画発見』『日本美術の底力』『商業美術家の逆襲』など。
企画監修した展覧会に『ZENGA展』『雪村展』『五百羅漢展』『白隠展』『超絶技巧!明治工芸の枠』『20世紀琳派 田中一光』『小村雪岱スタイル』『コレクタ-福富太郎の眼』などがある。
「等身大の表現を評価したい。」
私がこの公募展の審査員をつとめさせていただくのは、早いもので、もう8回目。前回、前々回はコロナ禍の最中だった。しかし、今回はコロナが終息に向かったこともあってか、応募作がかなり増えたという。喜ばしい。
大賞を受賞した小俣花名さんの「My sweet home」という作品は、審査過程において私がもっとも強く推した作品である。大賞を決める際の最終討議においては、さまざまな意見が出たが、結果としてこの作品が受賞したことを嬉しく思う。
自宅の室内だろう。コロナ禍で引きこもる日々が続いたから、このような作品を構想したのだろうか。和紙に墨でびっしりと描き込まれた画面。余白はまったくない。作者は美術大学で日本画を専攻したというが、このような描法を大学で教わったわけではないだろう。
それにしても、画面右上にある「元気な子」という半紙に書かれた習字が気になる。左端には「年 小俣有」と書かれてあって、この小学生だと思われる「有」さんは受賞者の子どもなのか、親戚なのか・・・。授賞式で聞いてみたい。この絵は、ほんとうに素直な、等身大の表現による、気持ちいい作品だと思う。
そして、私の個人賞とした大村正一さんの「世界の終わり」という作品は、極めつけに陰鬱な絵である。ガスマスクを着けた人物、横たわる犬、そして画面中央上に精緻に描かれたモノクローム人物・・・それぞれのモティーフにどのような意味があるのか判然としないが、この作者の確かな技量を評価したい。やはり、授賞式でこの作者と話してみたいと思っている。
【 第19回世界絵画大賞展 2023 】審査員講評
- 審査委員長
遠藤 彰子( Akiko Endo )
1947年 東京都生まれ
1969年 武蔵野美術短期大学卒業
1978年 昭和会展林武賞受賞
1986年 安井賞展安井賞受賞、文化庁芸術家在外特別派遣 (~87年/インド)
1992年 個展「遠藤彰子展-群れて…棲息する街-」(西武アート・フォーラム)
2004年 個展「遠藤彰子展-力強き生命の詩」(府中市美術館)
2007年 平成十八年度芸術選奨文部科学大臣賞
2014年 個展「魂の深淵をひらく-遠藤彰子展」(上野の森美術館) / 紫綬褒章受章
2015年 個展「Ouvrir la profondeur de l’âme」(パリ国立高等美術学校/フランス)
2021年 個展「遠藤彰子展-魂の旅」(鹿児島市立美術館) / 個展「物語る 遠藤彰子展」(平塚市美術館)
2022年 個展「巡りゆく―遠藤彰子展」(サントミューゼ 上田市立美術館/長野)
現在、武蔵野美術大学名誉教授、二紀会理事、女流画家協会委員。
世界絵画大賞展は今年で19回目となりました。今回は応募作品数が前年より174点も増えたこと、また、30号の大きな作品に佳作が多く集まったことで、審査員一同、入選作品の選定にはかなり苦労いたしました。何度も議論を重ね、厳選なる審査の結果、1058点中158点を入選といたしました。
大賞の小俣花名さんの作品は、和紙と墨の風合いや、画面を埋め尽くす細密的な描写に、アジアの民俗画的なエッセンスが加味された造形性の面白さを感じました。画面内の文字の入れ方については賛否が分かれましたが、日常風景を独自の視点で造形化している点を高く評価し、今回の大賞といたしました。
優秀賞の古川右京さんの作品は、ヒョウの動きを一つの画面にまとめ、のびやかなタッチで構成した点が、高評価を得ました。アニメ的な感覚とキュビスムが融合したかのような表現であり、さらなる展開も期待できる佳作だと思います。
同じく優秀賞の深作秀春さんの作品は、深層心理にある風景を覗いたかのような不可思議な印象を受けました。今後、どのように展開し、バリエーションを付けていくか楽しみにしています。
東京都知事賞の本間佳子さんは、ほぼ毎年出品されている当コンペの常連の一人です。毎回視点を変え、自分ならではの表現に挑戦し続ける姿勢を、高く評価いたしました。
遠藤彰子賞の本間由佳さんの作品は、絵の具の筆致が光の粒のように感じられる心地良さ…という範囲に収まらず、謎の影とパレットを配置している点が妙に引っかかりました。言葉にできない感覚がこぼれているような、奇妙で不思議な作品です。
当コンペはこれまで、完成度の高い作品はもとより、拙くとも創造性が表れている作品を積極的に選んできました。それが、美術界で活躍する新人作家を多く輩出してきたという結果につながっているのかもしれません。今回は倍率が厳しめとなってしまったので、入選に至らなかった作品の中にも佳作が多数ありました。今回の結果にめげず、次回以降もまた挑戦していただけたら嬉しく思います。
審査員
絹谷 幸ニ( Koji Kinutani )
1943年 奈良県生まれ
1962年 奈良県立奈良高等学校卒業
1966年 東京芸術大学美術学部油画科卒業 (小磯良平教室)
1967年 独立賞受賞
1968年 同大学院壁画科(島村三七教室、アフレスコ古典画研究)卒業。独立美術協会会員となる
1971年 イタリア留学(ヴェネツィア・アカデミア入学、ブルーノ・サエッティー教授、アフレスコ古典画法等研究)
1974年 第17回安井賞受賞
1978年 マニフェスト賞受賞(イタリア・マニフェスト展)
1983年 第2回美術文化振興協会賞受賞
1987年 第19回日本芸術大賞受賞
1989年 第30回毎日芸術賞受賞
1993年 東京芸術大学美術学部教授
1997年 冬季オリンピック長野大会公式ポスター・競技別ポスター原画制作
2001年 独立美術協会第68回展出品作≪蒼穹夢譚≫ にて日本芸術院賞受賞。芸術院会員となる
2008年 若手芸術家を顕彰する「絹谷幸二賞」を創設
2010年 東京藝術大学教授退官
2014年 文化功労者に顕彰
2015年 NHK放送文化賞受賞、大阪芸術大学教授退官
2021年 文化勲章受章
2023年 絹谷幸二芸術文化賞創設(サンケイ新聞社・絹谷幸二財団)
現在、日本芸術院会員、独立美術協会会員、東京藝術大学名誉教授
本年の世界絵画大賞展は応募作品の点数もきわめて多くなり、しかも充実した内容のある秀作も増加し選考は大変厳しいものとなりました。
第1次審査では多くの作品が残りましたが、回を重ねるごとに選者の目は厳しくなり、入選作はその数が見る見る少なくなり、ついには入賞作に至ってはこれ以上しぼり込めないほどの少数となりました。
そのような厳選の中で大賞を取られた小俣花名さんの「My sweet home」は、和紙に墨でご自身の日常と部屋をていねいに描かれた力作でした。コロナ禍の中、外出も出来なかったこの3年半あまりの時間が見事に描き出されていた秀作だと思います。
優秀賞、古川右京さんは歩行する野獣を動画のように描いたアイデアが良かったと思います。同じく深作秀春さんは、奥行きのある室内を白黒で描き、詩情さえ感じられる作でした。
東京都知事賞の本間佳子さんは、都会に住む人々の言葉にも出せない気持ちを螺旋階段の画面にひっそりと指し示していました。
さて、受賞作の中で唯一明るい絵は宮嵜大成さんの「受けとめることは進むこと」の絹谷幸二賞です。長いコロナ禍が人々の心を暗く締め付けていましたが、この作では、マスクが空中に飛び、自然も人も生々と描かれています。これからは元気に愉快に人生を楽しみましょうと作品が歌っています。プラス思考はどのような苦しい時にも必要なことですね。
なお、学生賞の佐藤璃奈さんはコラージュを自在に使い、新しい絵画の道を開こうとする力強い作品でした。
最後に、第19回展では惜しくも選にもれた作品の中にも見応えのある作が多々あったことを記し、次回作に期待したいと思います。
- 審査員
佐々木 豊( Yutaka Sasaki )
1935年 名古屋市生まれ
1949年 三尾公三に出会い油絵を始める。
1959年 国展国画賞 (同'60)、同35周年記念賞 (‘61)
1959年 東京芸術大学油画科卒業
1961年 同専攻科修了
1960年 ~ 個展多数
1967年 世界一周旅行
1972年 U.S.Aフェーマス・アーチスト・スクール研修
1978年 ~ 第1回現代の裸婦展準大賞・安井賞展・明日への具象展・具象絵画ビエンナーレ日本秀作美術展・国際形象展・日本洋画再考展・現代の視覚'91展出品
1992年 安田火災東郷青児美術館大賞
1993年 「泥棒美術学校」(芸術新聞社) 刊行
1998年 両洋の眼展倫明賞 (同’01)
2001年 個展 (香港/マーチーニ画廊)
2005年 個展「薔薇女」(東京・名古屋・大阪・京都・横浜髙島屋)「佐々木豊画集ー悦楽と不安と」刊行 (求龍堂)、大原美術館作品買上
2008年 台北、上海アートフェア
2017年 画集「薔薇と海」刊行 (求龍堂)
[作品所蔵] 愛知県美術館、横浜美術館、平塚市美術館、横須賀美術館ほか。
数ある著作のうち「泥棒美術学校」は10刷のロングセラー。
元明星大学教授。現在、国画会会員、日本美術家連盟理事。
久しぶりに論争をした。山下裕二氏とである。氏が大賞に小俣花名氏の白黒作品を推すので待ったをかけたのだ。
大賞候補が7、8点並べられた時、この絵を指で撫でてみた。つるっとして印刷物みたいだ。色もない。
「例えばコレクターが絵を買う時、総額の1/3は絵肌の味わいに、1/3は色彩の魅力に支払うと言っていい。なのに、この絵にはその両方が欠けているのでは?」
「そんな決めつけは良くない、作者に失礼だよ。私はコレクターの1人だ。室町美術の研究者でもある…」
美術雑誌で作家訪問記を連載してきた氏が気に入った絵に出合うと買ってしまうのは有名な話だ。
氏のカウンターパンチを食らって目が覚めた。そうだ、審査ではネガティブな意見は言わない方がいい。賛成論だけで事は運ばれるべきだ。それが持論ではなかったか。芸術作品は賛美と結婚することで、幸福な未来が築かれるからだ。
優秀賞の深作秀春氏は、白と黒を効果的に配して強い印象を与える。不気味な室内の雰囲気を少女が救ってくれる。
古川右京氏の腕達者には脱帽。こんな動きのある絵に出合ったのは初めてだ。
東京都知事賞の本間佳子氏は、螺旋階段の絵で、上部に配した人物の上半身をカットした構図がユニークだ。紙袋と長靴が現実感を強めている。只者ではない。
学生賞の顔の絵は大胆さを買う。男の豪腕で描かれたと思いきや、16歳の璃奈ちゃんの絵でした。
佐々木豊賞の理明氏の夢のようなイメージには参った。踊っているのがお婆さんで顔を克明に描いているのもいい。1970年代に「ウィーン幻想派」が一世を風靡し、多大な影響を受けたことを思い出した。
今回は暗い絵が多く受賞作に選ばれたが、たまたまそうなっただけ。そんな年もあるんだねえ。
- 審査員
山下 裕二( Yuji Yamashita )
1958年、広島県生まれ
東京大学大学院卒業。
美術史家。
明治学院大学文学部芸術学科教授。
室町時代の水墨画の研究を起点に、縄文から現代美術まで、日本美術史全般にわたる幅広い研究を手がける。
著書に『室町絵画の残像』『岡本太郎宣言』『日本美術の二〇世紀』『狩野一信・五百羅漢図』『一夜漬け日本美術史』『伊藤若冲鳥獣花木図屏風』『水墨画発見』『日本美術の底力』『商業美術家の逆襲』など。
企画監修した展覧会に『ZENGA展』『雪村展』『五百羅漢展』『白隠展』『超絶技巧!明治工芸の枠』『20世紀琳派 田中一光』『小村雪岱スタイル』『コレクタ-福富太郎の眼』などがある。
私がこの公募展の審査員をつとめさせていただくのは、早いもので、もう8回目。前回、前々回はコロナ禍の最中だった。しかし、今回はコロナが終息に向かったこともあってか、応募作がかなり増えたという。喜ばしい。
大賞を受賞した小俣花名さんの「My sweet home」という作品は、審査過程において私がもっとも強く推した作品である。大賞を決める際の最終討議においては、さまざまな意見が出たが、結果としてこの作品が受賞したことを嬉しく思う。
自宅の室内だろう。コロナ禍で引きこもる日々が続いたから、このような作品を構想したのだろうか。和紙に墨でびっしりと描き込まれた画面。余白はまったくない。作者は美術大学で日本画を専攻したというが、このような描法を大学で教わったわけではないだろう。
それにしても、画面右上にある「元気な子」という半紙に書かれた習字が気になる。左端には「年 小俣有」と書かれてあって、この小学生だと思われる「有」さんは受賞者の子どもなのか、親戚なのか・・・。授賞式で聞いてみたい。この絵は、ほんとうに素直な、等身大の表現による、気持ちいい作品だと思う。
そして、私の個人賞とした大村正一さんの「世界の終わり」という作品は、極めつけに陰鬱な絵である。ガスマスクを着けた人物、横たわる犬、そして画面中央上に精緻に描かれたモノクローム人物・・・それぞれのモティーフにどのような意味があるのか判然としないが、この作者の確かな技量を評価したい。やはり、授賞式でこの作者と話してみたいと思っている。