第17回世界絵画大賞展 2021 審査員講評


【 第17回世界絵画大賞展 2021 】
審査員講評

  • 審査委員長
    遠藤 彰子( Akiko Endo )

    1947年 東京都生まれ
    1969年 武蔵野美術短期大学卒業
    1978年 昭和会展林武賞受賞
    1986年 安井賞展安井賞受賞、文化庁芸術家在外特別派遣 (~87年/インド)
    1992年 個展「遠藤彰子展-群れて…棲息する街-」(西武アート・フォーラム)
    2004年 個展「遠藤彰子展-力強き生命の詩」(府中市美術館)
    2007年 平成十八年度芸術選奨文部科学大臣賞
    2014年 個展「魂の深淵をひらく-遠藤彰子展」(上野の森美術館) / 紫綬褒章受章
    2015年 個展「Ouvrir la profondeur de l’âme」(パリ国立高等美術学校/フランス)
    2021年 個展「遠藤彰子展-魂の旅」(鹿児島市立美術館) / 個展「物語る 遠藤彰子展」(平塚市美術館)
    現在、武蔵野美術大学名誉教授、二紀会委員、女流画家協会委員。


「 審査を終えて 」

 今年の世界絵画大賞展は、応募者が前回より167人も増えたことによって、例年以上にレベルの高い作品が集まりました。新型コロナウイルスの感染拡大によって、自分の時間が増えたことが、表現者にとってはプラスの影響を与えたのかもしれません。応募点数は940点で、厳選な審査によって、その内199点を入選といたしました。
 大賞の小林隆之さんの「初夏の風」は、少女が鏡の世界を通して、自分の内面を見つめているような印象を受けました。それぞれのパーツが、丁寧な描写で様式化され、独特な雰囲気を醸し出しています。審査員全員の一致で今回の大賞に決まりました。
 優秀賞の金沢耕助さんの「再会」は、それぞれの場所に別の時間が流れ、再開までの物語を見ているような面白さがありました。空間の使い方がとてもユニークです。
 同じく、優秀賞の梶村帆香さんの「生活」は、仕切られた空間に心象的な風景が描かれており、詩的な面白さが感じられました。絵肌の柔らかな空気感にも魅力を感じました。
 遠藤彰子賞のMonzo渡邉さんの「ゴチャゴチャな街」は、止むことを知らない都会の喧騒を、コラージュのような画面構成で表現しています。独特な絵画技法にも興味をそそられました。
 惜しくも選外となってしまった作品の中にも力作が多くあり、最後まで本当に悩みました。結果にかかわらず来年も挑戦してほしいと思います。まだしばらくはコロナの影響が続きそうですが、 自分自身と向き合う時間を大切にしながら、お互いに頑張っていきましょう。


  • 審査員
    絹谷 幸ニ( Koji Kinutani )

    1943年 奈良県生まれ
    1962年 奈良県立奈良高等学校卒業
    1966年 東京芸術大学美術学部油画科卒業 (小磯良平教室)
    1967年 独立賞受賞
    1968年 同大学院壁画科 (島村三七教室、アフレスコ古典画研究) 卒業。独立美術協会会員となる。
    1971年 イタリア留学 (ヴェネツィア・アカデミア入学、ブルーノ・サエッティー教授、アフレスコ古典画法等研究)
    1974年 第17回安井賞受賞
    1978年 マニフェスト賞受賞 (イタリア・マニフェスト展)
    1983年 第2回美術文化振興協会賞受賞
    1987年 第19回日本芸術大賞受賞
    1989年 第30回毎日芸術賞受賞
    1993年 東京芸術大学美術学部教授
    1997年 冬季オリンピック長野大会公式ポスター・競技別ポスター原画制作
    2001年 独立美術協会第68回展出品作≪蒼穹夢譚≫ にて日本芸術院賞受賞。芸術院会員となる。
    2008年 若手芸術家を顕彰する「絹谷幸二賞」を創設する。
    2010年 東京藝術大学教授退官
    2014年 文化功労者に顕彰
    2015年 NHK放送文化賞受賞、大阪芸術大学教授退官
    現在、日本芸術院会員、独立美術協会会員、東京藝術大学名誉教授。


「 展評 」

 本年はコロナ禍の中、皆さん画室に閉じ篭って製作されたせいか、力作が多く集まっていました。描き込みもよく、出品点数も例年より223点増加、絵を描く者にとりましては、引きこもりも悪くはない様ですね。
 さて、本年の大賞「初夏の風」の小林隆之さんはたんたんと描かれ、すがすがしい初夏の風が画面に流れていました。優秀賞「再会」の金沢耕助さんは、ご高齢にもかかわらず画面が新鮮で明るく、そして同賞の梶村さんは若さの中にひそむ不安をていねいに描き込みましたね。
 東京都知事賞の木内さんはインパクトのある絵でした。遠藤彰子賞のMonzo渡邉さんは「ゴチャゴチャな街」を、力強く描き、学生賞の上原さんは18才の若々しい感性が多彩な色調でグイグイ描き、「絵で伝えたい」内容が見事に見る人に伝わる秀作だと思います。
 そして、絹谷賞の本間佳子さんは消失点を天空に求め、人々が群れ住む都会で住まうやるせない孤独感がうしろ向きの人物に現れていて、良い作品と思いました。
 上記の他にも心に残る秀作が賞に入選し、又、落選作にも多数力作があった事を記しておきたいと思います。そして次回の作品を期待します。


  • 審査員
    佐々木 豊( Yutaka Sasaki )

    1935年 名古屋市生まれ
    1949年 三尾公三に出会い油絵を始める。
    1959年 国展国画賞 (同'60)、同35周年記念賞 (‘61)
    1959年 東京芸術大学油画科卒業
    1961年 同専攻科修了
    1960年 ~ 個展多数
    1967年 世界一周旅行
    1972年 U.S.Aフェーマス・アーチスト・スクール研修
    1978年 ~ 第1回現代の裸婦展準大賞・安井賞展・明日への具象展・具象絵画ビエンナーレ日本秀作美術展・国際形象展・日本洋画再考展・現代の視覚'91展出品
    1992年 安田火災東郷青児美術館大賞
    1993年 「泥棒美術学校」(芸術新聞社) 刊行
    1998年 両洋の眼展倫明賞 (同’01)
    2001年 個展 (香港/マーチーニ画廊)
    2005年 個展「薔薇女」(東京・名古屋・大阪・京都・横浜髙島屋)「佐々木豊画集ー悦楽と不安と」刊行 (求龍堂)、大原美術館作品買上
    2008年 台北、上海アートフェア
    2017年 画集「薔薇と海」刊行 (求龍堂)
    数ある著作のうち「泥棒美術学校」は10刷のロングセラー。
    元明星大学教授。現在、国画会会員、日本美術家連盟理事。


「 流行のゴチャゴチャ画と一線を画す大賞受賞作 」

 大賞の小林隆之氏の半身像は対比が見事だ。人物の曲線と背後の直線、髪の毛や肩の上部の黒と顔の白。前者は線の、後者は明暗の対比によって、興味の中心である人物を際立たせている。花の朱と窓枠の青との補色対比も鮮やかである。
 優秀賞の金沢耕助氏の絵は賑やかだ。近年、このようなゴチャゴチャなお祭り派が増えてきた。遠近法的にみると人物群や建物の大きさはデタラメである。それが、かえって児童画のような天真爛漫な雰囲気を醸し出している。
 同じく優秀賞の梶村帆香氏のマルチスクリーン風の絵は、日常風景の各場面を、一つの画面に羅列した構成に独自性がある。
 東京都知事賞の木内匡氏による、フクロウの絵は原色の赤と緑の補色対比による強烈なデザイン画だ。画面を縦横に走る曲線が、絵に活気を与えている。国外逃亡したあのゴーン元会長にそっくりなふくろうもあったが、この絵はそうでもない。
 シニア賞の森谷俊夫氏は室内で絵を描く人達と窓の外の風景との対比がおもしろい。
 学生賞の上原一真氏は要素の繰り返しを構成の基本としている。赤い帽子の横顔、その下のオレンジと菱形の花びら。それら異質の要素を、一つの画面に閉じ込めたところに、作者の豪腕ぶりが認められる。
 佐々木豊賞の湯浅陽介氏による幻想画は映画の一場面のようだ。60年代の抽象全盛時代、絵画の純粋性が叫ばれ、あんなに嫌われた物語性が、ここでも復活しているのに驚く。ヘタウマが多い中にあって、正統的なデッサン力を駆使した油絵ならではの表現に注目した。


  • 審査員
    山下 裕二( Yuji Yamashita )

    1958年、広島県生まれ
    東京大学大学院卒業。
    美術史家。
    明治学院大学文学部芸術学科教授。
    室町時代の水墨画の研究を起点に、縄文から現代美術まで、日本美術史全般にわたる幅広い研究を手がける。
    著書に『室町絵画の残像』『岡本太郎宣言』『日本美術の二〇世紀』『狩野一信・五百羅漢図』『一夜漬け日本美術史』『伊藤若冲鳥獣花木図屏風』『水墨画発見』『日本美術の底力』『商業美術家の逆襲』など。
    企画監修した展覧会に『ZENGA展』『雪村展』『五百羅漢展』『白隠展』『超絶技巧!明治工芸の枠』『20世紀琳派 田中一光』『小村雪岱スタイル』『コレクタ-福富太郎の眼』などがある。


「 真面目な、篤実な絵を評価したい 」

 昨年の審査評に、私は「入選作品の中にはコロナ禍の状況を反映して、マスクなどをモティーフにした作品もいくつか見られた。来年は、そのような発想に基づく作品がさらに増えるかもしれない」と書いた。それから一年。そんな作品もたしかにいくつかあった。コロナ禍はいまだ先が見えず、不安な日々が続くが、そんな状況にあって、昨年より応募作品がかなり増えたことは嬉しい。コロナ禍にすっかり慣れて、多くの作者が自宅に籠もって制作しようとしたのかもしれない。
 私がこの審査員を務めるのは六回目。他の審査員の方々とも気心が知れているので、審査は順調に進んだ。大賞を受賞した小林隆之さんの「初夏の風」は、端正な女性像である。まず、おそらくアクリル絵具によるものだろうか、平滑でマットな独特の絵肌が素晴らしい。手前に置かれた花、時計、オウムガイなどのモティーフにどんな意味があるのかはよくわからないが、この作者がしっかりした技術を身につけていることがよくわかる。私は、こういう真面目な、篤実な表現をしている作品こそ高く評価したいので、大賞を授与できてよかったと
思う。
 私の個人賞を受賞した大河原基さんの「昼下がりの散歩」は、ポップなセンスが際立つ作品である。きっちりした服装の男女二人。男性の顔が目の下で切れているのが思わせぶりでいい。よく見れば、衣服の質感は見事に表現されていて、この作者も高度な技法を身につけていることがわかる。技術+センス。なんとも楽しい絵だ。他にも、優秀賞を受賞した金沢耕助さんの「再会」は、この作者ならではの素晴らしい絵心を感じさせてくれた秀作として高く評価したことをここに記しておきたい。