第16回世界絵画大賞展 2020 審査員講評


【 第16回世界絵画大賞展 2020 】
審査員講評

  • 審査委員長
    遠藤 彰子( Akiko Endo )

    1947年 東京都生まれ
    1969年 武蔵野美術短期大学卒業
    1978年 昭和会展林武賞
    1986年 安井賞展安井賞、文化庁芸術家在外特別派遣 (~87年/インド)
    1992年 府中市美術館にて個展
    2007年 平成十八年度芸術選奨文部科学大臣賞
    2014年 上野の森美術館にて個展。同年、紫綬褒章 受章
    2015年 個展「Ouvrir la profondeur de l’âme」(パリ国立高等美術学校/フランス)
    2016年 「遠藤彰子の世界展 ~COSMOS~」(相模原市民ギャラリー/神奈川)
    2017年 「遠藤彰子展 “Cosmic Soul”」(武蔵野美術大学)
    現在、武蔵野美術大学名誉教授、二紀会委員、女流画家協会委員。


「 審査を終えて 」

 今年の世界絵画大賞展は、新型コロナウイルス感染拡大の影響で中止もやむを得ない状況でしたが、十分な感染防止対策の実施を前提に開催が決定されました。表現者にとって、発表の機会が失われることは大変辛いことなので、この決定は素直にうれしく思いました。もちろん、予断を許さない状況は続いておりますので、主催者と共に展示の最終日まで気を引き締めていこうと思います。
 今回、大賞となった川本渓太氏の「はるのひ」は、お面によって表情を読み取ることが出来ない不安感や、対象や空間を微妙に歪めることによって、じわじわと恐怖が押し迫ってくるような不気味さが感じられる作品です。リアリティを保ちつつも違和を感じさせるという絶妙な距離感が無意識に訴えかけてくるかのようでした。審査員全員の一致で大賞に決定いたしました。
 優秀賞の本間佳子氏の「ASSUMPTION FREE」は、街の風景をコラージュのように配置しています。濡れた路面に写る街明かりのように、反転し、抽象化された世界は、記憶の断片を見ているかのような面白さを感じました。
遠藤彰子賞の松岩邦男氏の「嘆きの岩場の少女」は、それぞれの登場人物たちが語り掛けてくるような、暗喩に満ちた世界観を構築しています。ロールプレイングゲームをしているような感覚で画面を見渡すと、物語性の感じられるとても興味深い作品でした。
 今回は、コロナの影響もあり出品者数の減少を予想していましたが、蓋を開けてみると、若干増えておりました。応募点数は717点で、その内203点を入選といたしました。全体としては、例年よりもシニア層の活躍が目立ち、充実した内容の作品が多くありました。
 惜しくも選外となってしまった作品の中にも佳作がたくさんあったので、結果にかかわらず来年も挑戦してほしいと思います。色々と大変な時期ですが、 お互いに体に気をつけながら頑張っていきましょう。


  • 審査員
    絹谷 幸ニ( Koji Kinutani )

    1943年 奈良県生まれ
    1962年 奈良県立奈良高等学校卒業
    1966年 東京芸術大学美術学部油画科卒業 (小磯良平教室)
    1967年 独立賞受賞
    1968年 同大学院壁画科(島村三七教室、アフレスコ古典画研究)卒業。独立美術協会会員となる
    1971年 イタリア留学(ヴェネツィア・アカデミア入学、ブルーノ・サエッティー教授、アフレスコ古典画法等研究)
    1974年 第17回安井賞受賞
    1978年 マニフェスト賞受賞(イタリア・マニフェスト展)
    1983年 第2回美術文化振興協会賞受賞
    1987年 第19回日本芸術大賞受賞
    1989年 第30回毎日芸術賞受賞
    1993年 東京芸術大学美術学部教授
    1997年 冬季オリンピック長野大会公式ポスター・競技別ポスター原画制作
    2001年 独立美術協会第68回展出品作≪蒼穹夢譚≫ にて日本芸術院賞受賞。芸術院会員となる
    2008年 若手芸術家を顕彰する「絹谷幸二賞」を創設する
    2010年 東京藝術大学教授退官
    2014年 文化功労者に顕彰
    2015年 NHK放送文化賞受賞、大阪芸術大学教授退官
    現在、日本芸術院会員、独立美術協会会員、東京藝術大学名誉教授。


「令和2年度世界絵画大賞展講評」

 本年の世界絵画大賞展では、コロナウイルス蔓延の最中にもかかわらずこの事態をものともせず出品作は総じて画面がしっかりと描き込まれていて、力作が沢山あった様に思いました。
 なかでも大賞「はるのひ」の川本渓太さんは秀逸で審査員一同の賛を得ました。
ゆがんだ顔の面をつけ、木に登っている少年でしょうか。こちらを見つめているといった他に類を見ない不思議な作者の視線を感じます。一見、何の変哲もない絵に見えましたが、春と桜の日に思いもよらない仮面少年とのミスマッチが新鮮でした。
 次に優秀賞「善光寺仁王門」の宮林さんは画面は稚拙には見えますが、集まりつどう人々の姿にユーモアがあり、時節がら心あたたまる作品でした。
 同じく「ASSUMPTION FREE」の本間佳子さんは縦横の線描がユニークな遠近感と、どこかうつろな都市の表情を伝えています。又、東京都知事賞「Lady Machiko」は迫力ある画面の大顔絵で現代の時代背景をするどく描き上げています。
 絹谷幸二賞、つまり私の名の賞は遠藤ハイサさんの「あまごい」に決まりましたが、シックな画面の中に人も花も木も詩情で描かれた、落ち着いたセンスあふれる秀作となっています。
 シニア賞の白肌4さんの「Do not forget」は、自在な感性で絵日記を描く様に過ぎ去った過去の思い出、又、未来をも予感させるユニークな作となっています。
 学生賞「milk」の石原さんの版画は、心あたたまる少年と羊達の触れ合いを版におこし、優しい思いやる心が定着した傑作と言えましょう。
 なお選にもれた作、賞を逃がした諸作にも素晴らしくセンス光る作も多々あったことを記し、次回を楽しみにしています。


  • 審査員
    佐々木 豊( Yutaka Sasaki )

    1935年 名古屋市生まれ
    1949年 三尾公三に出会い油絵を始める
    1959年 国展国画賞(同'60)同35周年記念賞(‘61)
    1959年 東京芸術大学油画科卒業
    1961年 同専攻科修了
    1960年 ~ 個展多数
    1967年 世界一周旅行
    1972年 U.S.Aフェーマス・アーチスト・スクール研修
    1978年 ~ 第1回現代の裸婦展準大賞・安井賞展・明日への具象展・具象絵画ビエンナーレ日本秀作美術展・国際形象展・日本洋画再考展・現代の視覚'91展出品
    1992年 安田火災東郷青児美術館大賞
    1993年 「泥棒美術学校」(芸術新聞社) 刊行
    1998年 両洋の眼展倫明賞(同’01)
    2001年 個展 (香港/マーチーニ画廊)
    2005年 個展「薔薇女」(東京・名古屋・大阪・京都・横浜髙島屋)「佐々木豊画集ー悦楽と不安と」刊行 (求龍堂)、大原美術館作品買上
    2008年 台北、上海アートフェア
    2017年 画集「薔薇と海」刊行 (求龍堂)
    数ある著作のうち「泥棒美術学校」は10刷のロングセラー。
    元明星大学教授。現在、国画会会員、日本美術家連盟理事。


「 毒気を放つ大賞 」

 ぎょっとする絵である。題名が「はるのひ」。のどかな春の日の白昼夢か。大賞はこれくらいパンチが効いてなくちゃ。幹や衣服を見ても、並の描写力ではない。リアリズムであるからこそ、この仮面劇が迫真性を得るのであろう。
 優秀賞の宮林謙次氏は原色を散りばめた楽しい絵である。線と原色。この特徴のあるスタイルで何でも描けるところに作者の強みがある。
 同じく優秀賞の本間佳子氏の街の一角を切りとった絵。白黒の単純な明度パターンによる構成が、強い視覚効果(ヴィジュアルインパクト)を生んでいる。すぐれたデザイン感覚に拍手。
 東京都知事賞のMonzo渡邉氏は大きな顔と目を、朱と緑の補色対比で描きパンチを効かせている。
 シニア賞の白肌4氏は童画のような雰囲気でひき込まれる。芸のこまやかさも魅力だ。年齢も性別もまちまちで一つとして同じ顔はない。左端の国旗をみると作者が楽しんで描いている気分が伝わってくる。
 学生賞の石原陸郎氏は三角形の安定した構図と力強い線で子羊を描いている。背景も版画独特の味わいがある。
 佐々木豊賞のYOHEYY氏は抜群のデッサン力の持主である。難しい手と顔を正面に位置づけて正攻法で描いている。ぼかしの技法や原色を散りばめた色彩感覚も異彩を放つ。これが大賞でも良かったなと思えてきた。


  • 審査員
    山下 裕二( Yuji Yamashita )

    1958年、広島県生まれ
    東京大学大学院卒業。
    美術史家。
    明治学院大学文学部芸術学科教授。
    室町時代の水墨画の研究を起点に、縄文から現代美術まで、日本美術史全般にわたる幅広い研究を手がける。
    著書に『室町絵画の残像』、『岡本太郎宣言』『日本美術の二〇世紀』『狩野一信・五百羅漢図』『一夜漬け日本美術史』『伊藤若冲鳥獣花木図屏風』『水墨画発見』『日本美術の底力』など。
    企画監修した展覧会に『ZENGA展』『雪村展』『五百羅漢展』『白隠展』『超絶技巧!明治工芸の枠』『20世紀琳派 田中一光』『小村雪岱スタイル』などがある。


技術力、発想力、そして絵心

 前回に続いて、この公募展の審査員をつとめさせていただいた。今回で五度目となる。新型コロナウィルスの影響で、今年は応募作品が減るかと思っていたが、前年とほぼ変わらなかった。応募者もそれぞれたいへんな日々を過されてきたと思うが、ステイ・ホームでかえって絵を描く時間が増えたのかもしれない。
 大賞を受賞した川本渓太さんの「はるのひ」は、全応募作品のうち、私が一次審査においてまずはじめに瞠目した作品である。よって、二次審査、最終審査においてもっとも強く推した。衣服や木肌の質感を巧みに表現する技術力。そして、なぜか顔が不気味な木彫?のようになっている、説明のつかない発想力。これが、顔もリアルに描写していたとしたら、私はこれほど高く評価しなかったと思う。審査後に知ったのだが、川本さんは美大を卒業したばかり、まだ23歳だという。今後の更なる飛躍を期待したい。
 そのほか、私が高く評価したのは、優秀賞を受賞した宮林謙次さんの「善光寺仁王門」と、私の個人賞・山下裕二賞を受賞した小幡義晴さんの「你好九份」である。いずれも賑やかな風景を描いた作品だが、技術力、発想力とは別次元の、作者ならではの絵心が存分に発揮された作品であり、絵を描く喜びがストレートに伝わってきた。そして、同様な絵心を感じさせる作品は他にもいくつかあったが、かつてこの公募展で受賞していたり、別の公募展でも見た既視感があって、強く推せなかった。
 受賞には至らなかったが、入選作品の中にはコロナ禍の状況を反映して、マスクなどをモティーフにした作品もいくつか見られた。来年は、そのような発想に基づく作品がさらに増えるかもしれない。