世界絵画大賞展 審査員のお言葉

第13回世界絵画大賞展 審査員のお言葉

第13回世界絵画大賞展の審査を担当した4名の審査員をご紹介と、各審査員の「審査のことば」を掲載いたします。

遠藤 彰子先生

審査委員長 遠藤 彰子(えんどう あきこ)

  • 1947年東京都生まれ。 武蔵野美術短期大学卒業。
  • 78年昭和会展林武賞。86年安井賞展安井賞、文化庁芸術家在外特別派遣(~87年・インド)。04年府中市美術館にて個展。07年平成十八年度芸術選奨文部科学大臣賞。14年上野の森美術館にて個展。14年 紫綬褒章 受章。
  • 現在、武蔵野美術大学教授、二紀会委員、女流画家協会委員

審査を終えて

 世界絵画大賞展は今年で13回目を迎え、厳選なる審査の結果、全応募作品数844点の中から199点が選ばれた。今回は例年以上にレベルが高く、当落ライン際では厳しい選択をとらねばならず、とても悩ましく感じた。本来の輝きを放つまでは、まだ時間を要する作品であっても、イメージの源泉から湧き上がるエネルギーの息吹を強く感じさせるものが多かったので、結果にかかわらずまた挑戦してほしいと思う。
 大賞の阿部一真氏の作品は、自分の部屋が描かれているのであろうか。中央の男性の不安定な心理状態によって、いままで認識していた世界が、別世界へと変容し瞬間を捉えたかのような空気感が感じられた。自分自身の日常を見つめ、素直な感性で描いたような作風に好感を持った。
 遠藤彰子賞の木村真祐氏の作品は、人間と異世界の動物たちが共存する不思議な世界観。恋に落ちる事をよく魔法に掛かると表現する事があるが、女性と会話をする男性と、周りに存在する異世界的なものとが呼応し、その状況を物語っているように感じた。細部まで丁寧に描き込んでいる所にも親しみを覚えた。
 絵画は、平面でありながら空間として認識され、作家は自らの創造性によって、抽象的な思想や本質的な特徴を象徴性として、そこに世界を生み出す。当コンペの過去の入選者たちの活躍は目覚ましいものがあるのだが、それは、出品者は傾向として、若い人たちが多く、創造性豊かな作品が多く集まるからなのかもしれない。それは、世界絵画大賞展の存在意義にもつながり、審査員としてもとても喜ばしいことである。
 今後この絵画展から、美術界の台風の目となるような作家が現れることを願っている。

絹谷 幸二先生

審査員 絹谷 幸ニ( きぬたに こうじ)

  • 1943年奈良県生まれ。62年 奈良県立奈良高等学校卒業。66年 東京芸術大学美術学部油画科卒業(小磯良平教室)。
  • 67年 独立賞受賞。68年 同大学院壁画科(島村三七教室、アフレスコ古典画研究)卒業。独立美術協会会員となる。70年 イタリア留学(ヴェネツィア・アカデミア入学、ブルーノ・サエッティー教授、アフレスコ古典画法等研究)。74年 第17回安井賞受賞。78年 マニフェスト賞受賞(イタリア・マニフェスト展)。83年 第2回美術文化振興協会賞受賞。87年第19回日本芸術大賞受賞。89年第30回毎日芸術賞受賞。93年 東京芸術大学美術学部教授。97年冬季オリンピック長野大会公式ポスター・競技別ポスター原画制作。
  • 01年独立美術協会第68回展出品作≪蒼穹夢譚≫ にて日本芸術院賞受賞。芸術院会員となる。08年若手芸術家を顕彰する「絹谷幸二賞」を創設する。14年NHK放送文化賞受賞。10年、東京藝術大学教授退官。15年大阪芸術大学教授退官。現在、日本芸術院会員。独立美術協会会員。東京藝術大学名誉教授。14年 文化功労者。

審査評

絹谷賞
鈴木愛美さんの「孤独のダンス」は画面斜めにたおれるような不思議な構図で他に類をみないユニークな作品です。何も描かれていない背景は、人物の孤独感とよくマッチしていますし、人物の背後につき出てくる得体の知れない塊はいったい何なのでしょう。この塊に押されるようにダンスする人の孤独感や無力感がよく描かれた秀作だといえます。

東京都知事賞
戸井李名さんの「人」は画面狭しと人物群が描き込まれた力作だと言えます。
人物は大きく口を開き、歌でも唄っているのでしょうか。次から次に「人」が生み出され生命が輝いています。ブルーから赤への色調を美しく人間に対する愛情が綿のように描きこまれていて作者の力量がうかがえます。

佐々木 豊先生

審査員 佐々木 豊( ささき ゆたか)

  • 1935年 名古屋市生まれ。 49年 三尾公三に出会い油絵を始める。 59年 国展国画賞(同'60)同35周年記念賞(‘61)59年 東京芸術大学油画科卒業。61年 同専攻科修了。
  • 60年~ 個展多数/67年 世界一周旅行。72年 U.S.Aフェーマス・アーチスト・スクール研修。78年~ 第1回現代の裸婦展準大賞・安井賞展・明日への具象展・具象絵画ビエンナーレ・日本秀作美術展・国際形象展・日本洋画再考展・現代の視覚'91展出品。92年 安田火災東郷青児美術館大賞。 98年 両洋の眼展倫明賞(同’01)元 明星大学教授。
  • 現在、国画会会員。

見たことのない絵

見るほどに引き込まれる絵がある。大賞の阿部一真氏のが、まさにそれ。2桁にしぼり込まれた中から、各審査員が2点ずつ大賞候補を選ぶことになった。小生、真っ先に手を挙げた。この絵の虜になっていたからだ。
「ゆらぎ」にである。ものが全て曲線で描かれ地震に出会ったようにゆらいでいる。そして不安感をかもしだしている。私がこの絵にひかれたのは不安の感情に共鳴したからだろう。よく見るアトリエ風景が特異な絵になった。これは一種の魔法で、この手法でなんでも描けるところに将来性がある。
優秀賞の狩野宏明氏の「運ぶ者」は地下室のような部屋と動物と機械の合成人間にどこかで見たような現実感がある。
同じく優秀賞の羽田彩夏氏の描く横顔はアルチンボルトの現代版だ。
東京都知事賞の戸井李名氏は女性画家特有の熱帯植物が繁殖するような生命力がみなぎっている。
シニア賞の金沢耕助氏の静物はぞんざいな描き方に魅力がある。線や色も成りゆきまかせ。それが、いきいきした感じを生んでいる。
学生賞の並木咲氏は16歳の絵とは思えない。「恐るべき子供」とは君のことか。髪の毛がパスタなのね。喰いしんぼうの女学生!
佐々木豊賞の文昭瑛氏には参った。こんなにも気味悪くしかも愛嬌のある顔、見たことない。近ごろ、このような描きたくても描けない絵にひかれる。
協賛社賞の西尾均氏の白昼夢はセーラー服とタコとの組合わせがおもしろい。
戸田喜耶氏の細密画はメカニックな器物で風景ではなく、顔を表わしたところが非凡だ。

山下 裕二先生

審査員 山下 裕二(やました ゆうじ)

  • 1958年、広島県生まれ。東京大学大学院卒業。美術史家。明治学院大学文学部芸術学科教授。
  • 室町時代の水墨画の研究を起点に、縄文から現代美術まで、日本美術史全般にわたる幅広い研究を手がける。
  • 著書に『室町絵画の残像』、『岡本太郎宣言』『日本美術の二〇世紀』『狩野一信・五百羅漢図』『一夜漬け日本美術史』『伊藤若冲鳥獣花木図屏風』『水墨画発見』など。企画監修した展覧会に『ZENGA展』『雪村展』『五百羅漢展』『白隠展』『超絶技巧!明治工芸の枠』『20世紀琳派 田中一光』などがある。

公募展の意義

昨年に引き続き、この「世界絵画大賞展」の審査員をつとめさせていただいた。私は、全国各地でかなりの数の公募展の審査員をつとめているが、他のどの公募展よりもスタッフのみなさんがしっかり準備をしてくださって、滞りなく審査が進んだことを嬉しく思う。ありがとうございます。
大賞の作品については、強く推された私以外の審査員が審査評を述べられると思うので、ここでは他の作品についてコメントしておきたい。
優秀賞を受賞した羽田彩夏さんの「コータの肖像」。なによりも、絵肌が美しいと思った。アルチンボルドを意識しただろう、
植物を組み合わせて人物に見立てた肖像。私は蝶マニアだから、蛾が交じっていることに違和感を覚えたが、この未知の作者の他の作品を観てみたいと強く思った。
同じく優秀賞、狩野宏明さんの「運ぶ者」。彼の作品は以前から個展などで観ていたのだが、今回の作品を一見したときには、彼の作品だとは気づかなかった。充分なキャリアがあって、なお、新たなスタイルを模索している彼の挑戦的な姿勢が素晴らしいと思った。
そして、私の個人賞とした八木沢美佳さんの「Roger!(ラジャー)了解!」。この、なんとも馬鹿馬鹿しい絵が、どうしようもなく好きだ。いま流行りのドローンに括りつけられた猫。お腹のところのビニール袋からは煮干し?がこぼれている。猫の眼下には、明石海峡大橋? そして、なぜか大きな船が燃えている。こういう、どうしようもないイメージの暴走がいいですねえ・・・。
公募展の審査は、アカデミックな世界とはまったく無縁の、未知の才能に出会える場である。そこから、彼らがさらに一歩進める機会になればと思っている。