第15回世界絵画大賞展 2019 審査員講評


【 第15回世界絵画大賞展 2019 】
審査員講評

  • 審査委員長
    遠藤 彰子( Akiko Endo )

    1947年 東京都生まれ
    1969年 武蔵野美術短期大学卒業
    1978年 昭和会展林武賞
    1986年 安井賞展安井賞、文化庁芸術家在外特別派遣 (~87年/インド)
    1992年 府中市美術館にて個展
    2007年 平成十八年度芸術選奨文部科学大臣賞
    2014年 上野の森美術館にて個展。同年、紫綬褒章 受章
    2015年 個展「Ouvrir la profondeur de l’âme」(パリ国立高等美術学校/フランス)
    2016年 「遠藤彰子の世界展 ~COSMOS~」(相模原市民ギャラリー/神奈川)
    2017年 「遠藤彰子展 “Cosmic Soul”」(武蔵野美術大学)
    現在、武蔵野美術大学名誉教授、二紀会委員、女流画家協会委員


「 継続する力 」

世界絵画大賞展は今年で15回目となりました。出品作品数は734点と昨年より若干減少したものの、今回はよりレベルの高い作品が多く見受けられました。審査では、何度も見直しながら慎重に議論を重ね、203点を入選としました。また、各賞の授与については、得票数の高いものの中から審査員全員の合議によって決定しました。回を重ねるごとに実りある作品が増え続けているのは、当コンペの特徴として、継続して出品している方の比率が高いからではないかと思われます。
大賞の井上琢氏は、長きに渡って当コンペに出品し続けてきた作家の一人です。今回は、これまでの画風とはまったく異なる奇妙な作品を出品してきました。そのイメージは、作者の情念を混沌とした空間に詰め込むことによって、人間の生理的感覚に訴えかけてきます。一見すると恐ろしい世界観ですが、無意識的な世界を辿り、創造の源泉に触れたかのような面白さもあり、そこが今回評価されました。

優秀賞の寺園俊子さんの作品は、物憂げな少女に対して、結ばれた赤い紐と舞う落ち葉の組み合わせが、詩的な情感を想起させます。自分なりのフォルムを持っているところと、丁寧に描かれているところに好感を持ちました。

遠藤彰子賞の城間雄一氏の作品は、独特な色彩感覚と画面全体を流動的に捉えているところがとても良いと思いました。構成の自由度も高く感じられたので、絵の具ののせ方などをもう少し研究すれば、さらに良くなるはずです。今後の活躍を期待いたしたいと思います。

過去に入選・受賞した方々が、美術業界で活躍されている姿を見るにつけ、若手作家の登竜門としての世界絵画大賞展の意義を感じます。今回、惜しくも選外となってしまった作品の中にも佳作が多数あったので、結果にかかわらず来年も挑戦していただけると大変嬉しく思います。


  • 審査員
    絹谷 幸ニ( Koji Kinutani )

    1943年 奈良県生まれ
    1962年 奈良県立奈良高等学校卒業
    1966年 東京芸術大学美術学部油画科卒業 (小磯良平教室)
    1967年 独立賞受賞
    1968年 同大学院壁画科(島村三七教室、アフレスコ古典画研究)卒業。独立美術協会会員となる
    1971年 イタリア留学(ヴェネツィア・アカデミア入学、ブルーノ・サエッティー教授、アフレスコ古典画法等研究)
    1974年 第17回安井賞受賞
    1978年 マニフェスト賞受賞(イタリア・マニフェスト展)
    1983年 第2回美術文化振興協会賞受賞
    1987年 第19回日本芸術大賞受賞
    1989年 第30回毎日芸術賞受賞
    1993年 東京芸術大学美術学部教授
    1997年 冬季オリンピック長野大会公式ポスター・競技別ポスター原画制作
    2001年 独立美術協会第68回展出品作≪蒼穹夢譚≫ にて日本芸術院賞受賞。芸術院会員となる
    2008年 若手芸術家を顕彰する「絹谷幸二賞」を創設する
    2010年 東京藝術大学教授退官
    2014年 文化功労者に顕彰
    2015年 NHK放送文化賞受賞、大阪芸術大学教授退官
    現在、日本芸術院会員。独立美術協会会員。東京藝術大学名誉教授


「 第十五回世界絵画大賞展によせて 」

年を重ねるごとに大賞展では出品者の技術や絵の内容などが深くなり、進取の気性がいちじるしく進歩して来ている様だ。老若を問わず描く熱意が審査する方にも伝わって来て、毎年楽しく拝見させていただいている。
大賞の井上琢君は画面全体に「これでもか」というほどに日頃の想いを描き込み、厚みのある作となっている。
優秀賞の寺園俊子さんは、けれん味のない筆づかいで「生き停まり」の白壁と黒い地面に少女を描いて、ご自身の「生き」て来た人生をふりかえっておられる様だ。
林寿朗氏は太古の樹木を静々と描き、都知事賞の蔭山茂昭氏はクローンと科学の進歩に一石を投じた心あたたまるすがすがしい作となっている。
絹谷 幸二賞の市川夏実さんの「コレクション」は、やや薄塗りの画面にむだな作意というものを感じさせない自在な感性が新鮮だと思う。絵画とはこの作者の様に本来楽しんで描くものかもしれない。おめでとう。
佐々木朗乃さんは技量にめぐまれ、小又雄一氏は静止する画面に過ぎ去った若き日の時間をみごとに描き止めている。
城間雄一君の逆転の発想も、孫芊平さんの「詰め込まれた」ねこ達も同じく愉快な作となっている。
終わりにシニア賞の金沢耕助氏の「令和元年」も同様に年を重ねられたすばらしい時間が画面に表現されていると思う。
来年も画友の皆さんの元気のよい作品と出合えることを願っています。


  • 審査員
    佐々木 豊( Yutaka Sasaki )

    1935年 名古屋市生まれ
    1949年 三尾公三に出会い油絵を始める
    1959年 国展国画賞(同'60)同35周年記念賞(‘61)
    1959年 東京芸術大学油画科卒業
    1961年 同専攻科修了
    1960年 ~ 個展多数
    1967年 世界一周旅行
    1972年 U.S.Aフェーマス・アーチスト・スクール研修
    1978年 ~ 第1回現代の裸婦展準大賞・安井賞展・明日への具象展・具象絵画ビエンナーレ日本秀作美術展・国際形象展・日本洋画再考展・現代の視覚'91展出品
    1992年 安田火災東郷青児美術館大賞
    1993年 「泥棒美術学校」(芸術新聞社) 刊行
    1998年 両洋の眼展倫明賞(同’01)
    2001年 個展 (香港/マーチーニ画廊)
    2005年 個展「薔薇女」(東京・名古屋・大阪・京都・横浜髙島屋)「佐々木豊画集ー悦楽と不安と」刊行 (求龍堂)、大原美術館作品買上
    2008年 台北、上海アートフェア
    数ある著作のうち「泥棒美術学校」は10刷のロングセラー
    元 明星大学教授。現在、国画会会員


「 宝石を散りばめたような絵肌の井上琢の大賞作品「City」」

闇の中にうごめいているのは動物?それとも人?でかい顔もある。笑っている。いや泣いているようにも見える。大賞の井上琢氏の「City」は見るものまかせだ。遠近法もへったくれもない。でも探しものをするような楽しさがある。宝石を散りばめたような絵肌に引きつけられた。
林寿朗氏の「はじまりを告げる時」は網み状の幹に神秘感がただよう。高度な表現技術に脱帽。今後はまとめやすいモノクロに甘んじるのではなく、ウィーン幻想派のような色彩の冒険を期待したい。
林氏と同じ優秀賞の寺園俊子氏は白と黒の単純な明度パターンによる構成だ。小生の作画法と同じなので驚いた。こうすると見た目に強い絵になるのだ。視覚的な訴求力(Visual impact)とでも言おうか。人物とひもの左右のバランスも絶妙である。でも首つりだけは止めてよね。
東京都知事賞の蔭山茂昭氏の「クローン」は奇妙な発想に興味をもった。鉄アレーに水につかる人か。今朝、鉄アレーによる筋トレ、夕方プールで泳いだ小生にとっては親しみのもてる題材である。が、母親らしき人物にぶら下がる人間を三人もひと塊りに描くなんて想像外である。
佐々木豊賞の「夏の冒険」は写真起こしであろうが驚くべき描写力である。人物の背中に若者の孤独感がただよう。
シニア賞の金沢耕助氏の「令和元年」は平面的で子供の絵かと思った。なんと81歳のてだれだ。モザイク画のような楽しさにあふれている。
学生賞の孫芊平氏の「詰め込み作業」は題名通りの絵だ。子供と大人の中間に位置する絵だと思った。子供の絵の特徴は、平べったい、同じ形の羅列、奥行感に欠ける、この3点にあるからだ。


  • 審査員
    山下 裕二( Yuji Yamashita )

    1958年、広島県生まれ
    東京大学大学院卒業。
    美術史家。
    明治学院大学文学部芸術学科教授。
    室町時代の水墨画の研究を起点に、縄文から現代美術まで、日本美術史全般にわたる幅広い研究を手がける。
    著書に『室町絵画の残像』、『岡本太郎宣言』『日本美術の二〇世紀』『狩野一信・五百羅漢図』『一夜漬け日本美術史』『伊藤若冲鳥獣花木図屏風』『水墨画発見』など。
    企画監修した展覧会に『ZENGA展』『雪村展』『五百羅漢展』『白隠展』『超絶技巧!明治工芸の枠』『20世紀琳派 田中一光』などがある。


「 描写力と絵心 」

 この「世界絵画大賞展」の審査員をつとめさせていただくのは、もう四回目。大先輩である佐々木さん、絹谷さん、遠藤さんとは、ある程度気心が知れてきたから、審査はスムーズに進んだ。だが、私以外の三名の方々はいずれも実作者で、私だけがそうではないから、いささかの評価のありようの違いを感じたことも事実である。
 私がもっとも高く評価した作品は、優秀賞を受賞した寺園俊子さんの「生き停まり」である。まず、少女の表情がいい。靴紐が解けたさまを丹念に描いているのがいい。そして、壁のひび割れなどをかなり精緻に描こうとしているのもいい。描写力と絵心が高度に融合している作品だと思う。
 やはり優秀賞を受賞した林寿朗さんの「はじまりを告げる時」は、もっとも優れた描写力を示した作品。バオバブの樹だろうか。たしかな技術で幻想的な画面を創り出している。また、描写力とは別の次元で魅力的な絵心を示していたのは、私の個人賞とした小又雄一さんの「タイムマシン」である。等身大の「絵を描くよろこび」が感じられて好ましかった。
 昨今、デジタル画像をトレースすることはいとも簡単にできるようになったから、そうではない時代とは、描写力の定義が変化してきた。一方、絵心については、これをそもそも定義することが難しいのだが、それこそが絵画が絵画であるためのもっとも肝要な核心だと思っている。それを両立させたものこそが、私が高く評価したい作品なのである。